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2019年9月13日 (金)

「知の体力」と「問う力」

4469

https://www.shinchosha.co.jp/writer/4469/

 学士会の夕食会で、永田和宏京都産業大学タンパク質動態研究所長(写真一枚目)による「知の体力と問う力」という講演を聴いた。永田氏は京都大学名誉教授で細胞生物学者として著名だが、一般の人に知られているのは、歌人で朝日歌壇の選者の方であろうか。もっとも、ご本人によれば、与謝野晶子以来と言われた、9年前に亡くなった歌人の奥様、河野裕子さん(写真2枚目)の方が名が通っているとか。この3つの顔のどれが今日の話かなと思ったが、ほとんどはどれでもない「教育論」のお話であった。

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https://www.eventscramble.jp/e/kawano/2013_publish

 現在の初等教育の主眼は「学習」、つまり、学んで習得すること。必ず一つある正解を早く発見し、それを応用することであり、先生が教えることは正しいことである。皆が同じことを学び落ちこぼれを作らないようにする。一方、大学は「学問」が主眼で、学んで問い直すところである。如何に正しく答えられるかではなく、如何に問うことができ、その問を如何に長続きできるかである。

 大学の研究では、答えが一つの問題は社会には存在しないことを教える。社会に出れば誰も正解を教えてくれない。想定外のことに対処できる力「知の体力」をつけさせる。教科書に載っていることは教えない。何がまだ分かっていないのかに気が付かせる。知識が学問につながるには、「驚き」と「感動」が重要。

 例を挙げると、人間の細胞のサイズは10ミクロンだが、一人あたり60兆個(最近は30兆個)もあるので、一列に並べると地球を15周もする。細胞あたりのDNAの長さは1.8mあるが、これを繋ぐと何と地球と太陽を200往復もするのだ。受精したときはたった一個の細胞が分裂を繰り返して、このような天文学的な数字になるのはまさに「驚き」と「感動」である。

 教えられたことは、果たして正しいのか疑うことが重要。役に立たないことを知るのも重要。上記の一人当たりの細胞数は、長い間、60兆個と信じられてきたが、最近、本当かと計算しなおす人がでて、今年30兆個に修正されたという。奥村晃作の歌に「次々と走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く」というのがあるが、こんな変な歌も「そうだよな、気がつかなかったなあ」と思う人は心豊かな人ではある。

 知は金さえ払えば無条件に与えてよいものか? 相手が知りたいと思うときのみ教えるべき。本は安く買えるが、著者の一生の努力に対するリスペクトがないがしろになっている。本を読むことで、自分の無知を発見し、自分を世界の中で相対化するのが重要。

 京大の物理で素粒子論を専攻したが物理の落ちこぼれである。ただ、湯川博士の最後の講義を聴いたがそれがどこかで自分の自信に繋がっている。三重苦にあったが、それは70年大学紛争、短歌、恋人(河野)である。当時の河野の歌に「たとへば君ガサッと落葉すくふやうに私をさらって行ってはくれぬか」。自分の当時の歌「きみに逢う以前のぼくに逢いたくて海へのバスに揺られていたり」。河野が自分を詠んだ歌は500首、逆は450首に及ぶと。森永乳業に就職してバイオに打ち込んだが、29歳の秋に3歳の子がいるのに無給で京大に転職した。

 「二足の草鞋」を穿いたが、岩波新書で理系と文系の両分野で本を出した人は他にいないそうだ。長い間、この道一筋の美学に後ろめたさを感じてきたが、50歳を過ぎたころから「二刀流」であるとして吹っ切れた。自分の仕事と同様に、他人の仕事が面白いと思うか? 質問が出来るように人の話を聴けるか? 可能性があれば、最も面白い可能性があるものを選ぶか? 自分のいる場所以外に世界があると思うか?--世界の優れた科学者は例外なく面白い。互いに信頼し尊敬できる仲間との出会いがうれしい。

 

 

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